上の写真は、2009年のインポートカーショーでブースを出した時の写真です。
左に写っているのは、Mk2 Traveller のフロアパネルを独自に作った治具を用いて組んだものです。
ボディワークの過程をお目にかけることで、来場者にグレイスの品質をご理解いただきたくて、お客様から了承を得て展示しました。

 

さて。
以前から噂されていた、ヘリテイジからの Mk1 ニューボディシェルが、発表されました。
発売は約1万ポンド、かなりの低価格で驚きです。
「レストレーションしました」と称するかなり危ない個体を山のように見てきたので、このシェルの発売の報は一つ、安全材料といえます。
でも、保持 の観点からすると、どうでしょう?

グレイスでは、もう数え切れない台数の再生を行ってきましたが、どんな方法をとるか、どこまでやるか、どう残すか…この部分はどれだけ
数を重ねても、常に深く考えるところです。
アンティークの器や骨董品のように鑑賞して愛でるものとは違うので、人が操る道具として安全に機能し且つ時間が経ったものとして
どのように保てるか、ということにずっと取り組んでいます、

そのために普段から使いながら、並行して競技活動も続けています。
当たり前な日々の使い方、相対して何が起こるか予測不能、考えられないようなことも起こりうるステージラリー。
この2つのロケーションがもたらすデータ・経験値は計り知れません。
いろんな乗り手のいろんな普段使いの車、はたまた激しすぎる、厳しすぎるステージを走破せねばならないラリー車。
双極にある車のレストレーションは、車両の深い理解への大きな助けになります。

もう20年以上も前に試したことを紹介しましょう。
Mk1 /2 のボディシェルと Rover Mini のボディシェル、この違いには大変驚きました。
同じタイヤ・サスペンションの組み合わせで比較すると、かなり違った動きをします。
同じミニなのに、何故?…サブフレームの取り付け方法が違うから?
同じにしてみますが、近づいたとはいえやはり違う。
確かにスライドウィンドのシャルとワインドアップのシャルでは、構造が異なります。
でも果たして、それだけなんでしょうか…
考え得る要素を探しては、テストを繰り返しました。

ボディワーク(鈑金・再生)のツボ、あれこれ。
解き明かされれば至極納得なのですが、そこに行き着くまではひとことで例えると、ミステリーの領域です。
例えば。
フロアパネルに腐りが見られるので、ダメなところを補修する、特に問題はない。
しかし範囲が広くなってくると、状況は違ってきます。
フロアパネル右側の腐りが酷いのですべて交換、左側はそのまま。すると…
ハンドリングに大きく影響が出ます。
しかし部位にもよりますが、継ぐ位置や方法を工夫したりすることで、その差は小さくすることが可能です。
乗り味への影響もありますが、後々のボディのコンディションにも響きます。
すぐあらわれるもの、時間が経ってから出てくるもの、そういう症例を探って…
どれだけボディに向き合ったことでしょう。

ちょっと違った角度からも。
70年代終わりくらいまでのボディと90年代のそれとでは、激しくモノが違うんです。
スティールパネルの材質ひとつ、大きく変わってくるんです。
古いパネルの素材には粘りがあり、いろいろな形を生み出すことができます。
強いプレスにも耐え得るので、古い車はどれもこれも個性的で素晴らしいフォルムをしています。
ところが 『対 サビ』 という観点からすると、現代のものより弱いでしょう。
厚みもありますから同じ形をしていても、当然重さがあります。
一方、現在作られるパネルは軽くてサビに強い、という特徴がありますが、強いプレスを要する造形は苦手です。
細かい違いを挙げたらキリがありませんが、様々の組み合わせによってボディのしなりにかなりの違いがあります。
先述の、同じ条件の足廻りであるにもかかわらず大きく動きが変わってしまうのは、この辺りに起因します。
MK1 / 2 とローバーボディでサーキットテストをすると、ローバーボディの方が強いバネレート・ダンパーを好みます。
ローバーボディでしっくりくるセッティングに合わせると、Mk1 / 2 ボディの方は動きが唐突になりました。
つまり、Mk1 / 2 ボディの方がボディ自体のしなりが少ない(ボディが強い)という証であり、ローバーボディはボディのヨレも加味した
サスペンションセッティングをする必要があるわけです。

このような研究・テストの取りまとめとして、1990年代、グレイスではローバーミニの新車に手を加え、英国でSPRITE RS というモデルを
プロデュースしました。
普段使いからスポーツ走行までできるような、そんな懐の深い1台を作りたくて。
エミッション(排ガス)もクリアして、ハンドリングの作り込みの段で…10インチの一般的なラジアルタイヤで、ミニのお家芸ともいえる
あのしなやかで切れ味のいい走りを実現したい、と試行錯誤。
ボディの補強は溶接を伴うので、新車には NO!
苦肉の策で、6点のロールケージを装着することで、思うようなボディ強度を確保できました。
ところが、ボディのしなりの抑制のためにロールケージを固定してあることで、ケージを固定した部位にクラック(ヒビ)が発生しやすくなります。
モノコックボディのなんとも難しいところです。

話を元に戻しましょう。
入手可能になった Mk1 / 2 ボディシェルの話。
このシェル、どう使うかが最大のポイントになるでしょう。
ただペイントして組み上げるもよし。経験値の高いビルダーが、一定の倫理観をもって車の再生に使う…
とても有益だと思います。

さて、私はと言いますと…
本当にいたみが酷くて、でもコストがかけられないようなケースには、これまでに入手できるようになっているMGB やスプリジェットの
ボディ同様に使います。
そして、少しでも元のフォルムが再現できるように努力します。
例えばルーフ。
外寸は Mk1 もローバーも同じはずですが、先述のパネルの材質の違いから湾曲も端の立ち上がりの景色も大きく違います。
サイドのプレスラインのキレ味も。

私のラリー車に使うとすると?
これはあまり声を大にして言えませんが、New シェルで組んだ車なら、今までよりスロットルを多く踏めるかな…???
いや、どれも勿体無いので、雑なことではダメですね。
スペアがあるからといって、大切にしないといけません。

ちょっと例えが飛躍しているかもしれませんが、日本家屋のつくりとそれにまつわる作法によく似ています。
『敷居を踏んではいけない』この作法は、日本家屋において柱や敷居が骨格であることからきています。
敷居を踏む、一回一回は微々たるものでも回数を重ねれば建てつけに歪みが生じましょう。
また柱に良質な材質を使ったり、堅牢なものを据えるのは、柱や敷居がその家の格を表すからです。
転じて、敷居を踏むということは、家柄やその家の人を踏みつけることにあたり大変失礼です。

半世紀たった車が、ボディごと丸入れ替え出来て、再生できる。
こんな画期的なことはありません。
ただ再生するにあたり、オリジナルをよく学び、時代背景と変遷をよく学び、最新の技術をよく学び、どう取り入れるか、どう融合させるかを熟考した上で、
手がけるべきと考えます。
保持する側(オーナー)も、同じ『車』には違いないけれども使い捨ての根本的に直せない現代車とは違う、通り一遍の価値ではなく遺産的/文化的な
価値があるということを理解してほしいと思います。
いたずらにもてあそんではいけない、そういう意識を持ってほしいと願ってやみません。
Mk1 ボディシェルの出現は、乗り手の見識低くもてあそばれてしまった個体の再生に、役立つことでしょう。