もう50年以上も前の、雪の降る寒い日だったそうです。
小学校3年生だった夫は、父親を見送りました。
遅くに授かった子で、わずか9年しか一緒にいられなかったけどその分、
孫ほどの歳の子をどこへでも連れて行ったそうです。
政治家とも交わりがあったとかで、会食の席にも小さかった夫は同行しました。
父親の古くなったスーツを仕立て直した、小さなスーツを着て。

美味しいものもいっぱい食べに行ったそうです。
東京下町の味覚、すき焼きやどじょう…そして。うなぎ。

息を引き取る直前、うなぎが食べたいとつぶやいた父親に、集まった家族は
大急ぎでうなぎを注文したものの、間に合わず。
「供養だお前が食べろ」
方々食べ歩いた夫が、その間に合わなかったうなぎを食べたそうですがそれ以来、
26歳で独立するまで一切、体が受け付けなかったんだそうです。

私がこの家に来てからは、お命日にはうなぎをお供えしてきました。
近所に美味しいうなぎを出す焼き鳥屋があったんです。
それが去年、パンデミックに因る営業自粛のタイミングで、廃業しちゃった。
さぁどうするか。

金沢八景の旧街道筋には、たかだか1km 程度の間に3件も鰻屋があるんです。
思い切ってそのうちの1件、明治創業 鰻松 へ。

店内にはお雛様が飾られていました。
菜の花が、場に春を呼んでいます。

我々が席につくと店内は満席。
さすが老舗…時節なんざ何のその。
うな重のセットを注文、先付け?に茶碗蒸しか酢の物を選べます。
私は酢の物を注文。

大振りの片口、たっぷりの合わせ酢に浸った様々の具が鮮やか ❤︎
具沢山で見えませんが、小肌の酢漬け・小ぶり厚切りの酢蓮も忍ばせてありました。

酢の物がこんな存在感!
これはお目にかからないとわからない…

いよいよお重が来ました。
あんまり色よく撮れなかったので割愛しますが、まぁ画像では伝わりません。
添えられていたのは『ぶどう山椒』。
石臼で挽いてあるそうで、鰻には直接かけずご飯にかけるようにとの註が。
爽やかな香りがますます食欲をそそります。

最後には、娘と私は無言になるくらいお腹いっぱい。
バニラ・抹茶・柚子シャーベットで〆。
父上への陰膳にと蒲焼を1人前、持ち帰りで用意してもらいました。

陰膳、遠く離れた家族が旅先や出征先で食べることに困らないようにという
習わしですが、広い意味でこれも陰膳。
遠く遠く離れた家族へ、まぁ食いっぱぐれはないんでしょうが…
せめて恨めしのうな重を。
私たちは便乗のお相伴ですが、明治生まれのその人を偲んで膳を囲む…
いい供養になったと思うんですが。

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